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放送作家はモバイラーなのか?
数年前から、紙と鉛筆だけで仕事が出来る放送作家にもIT革命が訪れた。
携帯用パソコンの登場である。(僕はVAIOのCシリーズを使用)
軽いし、どこでも仕事が出来るし、ホントに便利!
なんといっても嬉しいのがバッテリーの保ちが長くなったこと。
チョット前までは「ウワッ、あと10分!ヤバッ!ヤバ!ヤバ!」と締め切りよりバッテリーと闘いながら台本を書いたものだが、最近は3時間は平気!
凄いのになると8時間以上保つのもある。
これだけ保てば、大抵の台本を仕上げることが出来る。
更に、行く会議の先々で、ちゃっかり充電する姿もよく見る光景となった。
但し、放送作家とモバイルの関係にチョット照れがある。
いまだに宿題がある仕事だから、待ち合わせの合間、少しでも時間があるとパソコンを開き仕事を始める。(これはモバイルの正しい使い方)
確かに、喫茶店でひたすらキーボードを打ち続けている姿は“時代の先端を行くモバイラー”という感じがする。(こんな広告見たことがある)
時折、画面を見ながら満足そうにタバコをくゆらせてニヤリと笑ったりもする。(これもドラマで見た気がする)
でも、書いてある内容に無理がある。
画面には「ホモ相撲!テカテカのホモたちが〜」とか、「モザイクマラソン!股間にモザイクを入れ〜」とか、とてもVAIOのCMからは想像出来ない内容が丸ロゴ風の可愛い文字で書いてあるのだ。
これはSONY的にどーなのか!?
たまに、偶然、お店の人に覗かれ恥ずかしい思いをしたことが何度もある。
ある日、会議中にケータイが鳴った。
出てみるとある番組のADからだった。
もう「ボス、大事件です!」と言った口調で叫んでいる。
「今からナレーション録りがあるんですが、樋口さんの原稿が届いてないっす!ハア、ハア、ハア・・・」
なんで息を切らしているのかは不明だったが相当、あせっていた。
朝方、原稿を送ったことを告げたが、全然、見あたらないと言う。
さて、困った・・・。
たまたま、原稿は家のデスクトップで書き、そのままFAXしたため、手元に原稿がなかったのだった。
今から、書き直す時間もない。
僕はADに「なんとかするからFAXの前で待ってろ!」と言い残し電話を切った。
残された手段はひとつしかなかった。
家にいる妻に送信してもらうしかなかった。
しかし、ここから壮絶なドラマが待っていようとは思いもしなかった。
なんてったって、妻は驚くほどのメカオンチなのだ。
テレビのビデオ予約が出来ないから、何時間も前から録画しっぱなし。
携帯電話の短縮登録も出来ないのだった。
更に!更に、最悪なことに僕は出掛けに妻と大喧嘩をしていたのだった。
家に電話をすると甲高い妻の声が聞こえた。
「ハイ、樋口です」
(何故、女性は年齢が上がるにつれ電話口の声が高くなるんだろう?)
しかし、相手が僕であるとわかると一気に声のトーンは低くなった。
「なに?」
「あのさ、忙しいところ悪いんだけど、お願いしたいことがあって・・・」
「だから、なに!?」
普通ならここで電話を叩ききってやるところだが、ここは冷静に
「チョット、パソコンから原稿を送って欲しいんだけど・・・子機を持ったまま仕事部屋に移動してくれない?」
「チッ!」
舌打ちしやがった!でも、これ以上、怒らせるわけにはいかない。
妻が電話を切った瞬間、大変なことになってしまう。
「なんか原稿が届いてないって言うんだよね・・・」
「あのさ、早くしてくんないこっちも忙しいんだから」
「ゴメン、ゴメン・・・、まず、電源を入れてくれる?」
「ハッ?そんなの、どこにあんの?」
“お前はアホか!電源ぐらいわかるだろ!”と言う言葉をグッと飲み込み
「あのね、テレビみたいな画面の下に、なんかスイッチみたいのがあるでしょ、それを押してみて」
するとチョット間があって、受話器の奥からかすかに起動音が聞こえた。
“やった第一段階成功だ!”
「そんでどうすんの?」
「あのね、パソコンというのは電源が入るのに1分近くかかるんだ・・・」
「フン」
妻のバカにしたような声が聞こえた。
しかし、こんなにパソコンが立ち上がる時間が長く感じたことはなかった。
しばし、重苦しい沈黙が続いた。
「今、画面、どうなってる?」
「エーッ、ウィンドウズ、ナントカカントカと言うのが出て・・・あれ消えた・・・あっ、付いた!」
“バカだコイツ!バカだコイツ!一瞬、画面が消えたのを壊れたと思っている!バカ!バカ!”と心の中で思いながらも
「大丈夫!大丈夫!立ち上がる時に一瞬、そうなるの」と妻を励ますフリをした。
「じゃ、今から手順を言うよ、まず、マウスをマイドキュメントってところまで持ってきて・・・」
「マウスがちゃんと動かないよ」
「エッ?」“マウスが動かない?”
「もしかして、マウス逆じゃない?」
“こいつコードをマウスのシッポだと思って逆に使ってたんだ!バカだ!”
そんな心の内も微塵も悟られないよう僕は説明を続けた。
「で、次なにすんの?」
「じゃあ、それを2回クリックして」
「ハッ?」
「ハッじゃなくって、カチカチって2回押してみて!そしたら画面が開いたでしょ」
「開いたけど・・・」
「今みたいなのをダブルクリックって言って・・・」
「わかったから、早くしてくんない!」
“絶対、ぶっ飛ばしてやる!”
「ゴメン、ゴメン、そこに□△×◎ナレーションって書いたのがあるでしょ、それをまたダブルクリックして」
「開いたよ!なんかヘンなの書いてある・・・」
“ヘンなのだと!?絶対、ぶっ飛ばしてやる”
でも、ここで切れたら負けだ!「交渉人」のサミエル・ジャクソンの様に僕は犯人の気を荒げないよう続けた。
「ファイルって書いてあるところにマウスを持ってきて・・・で、1回押すと、なんか、幕みたいなのが降りてくてくるんだけど・・・降りてきた?」
「・・・」
「凄い!凄い!やれば出来るジャン」
「バカにしてんの?」
「違うよ!初めてにしてはホント凄いって!」
多分、妻はチョット面白くなってきたに違いない。
ここは一気に機嫌のイイ内に終わらさねば!「そこに印刷っていうのがあるから、そこに矢印を合わせてダブルクリックしてみて!そしたらFAXの画面になるから」
もう少しだ!もう少しで原稿が送れる!
「出てきたよ!」
妻の口調も幾分、穏やかになってきた。
「じゃあ、FAX番号を言うから、数字を押してくれる!□□□□−□□□□」
あとは送信するだけだ!長かった〜。妻の機嫌を取りながらやっとここまで辿り着いた!
「じゃあ、送信って言うボタンがあるからそれを押して!慎重にね、ゆっくりとね・・・」
遂に人質救出・・・いや、原稿が送れた瞬間だった。40分近くに渡る死闘は終わった。
ここで妻に罵倒を浴びせ電話を切ってやろうかと思ったけど、原稿が無事、相手に送られたことを確認するまで、万が一の事を恐れ、丁寧にお礼を言って電話を切った。
(映画だとこの辺でエンディングロールが流れ出すところ)
そして、FAXの前で待ち続けているADに連絡。
「樋口だけど、原稿来た?」
するとADは言った。
「あの・・・、原稿・・・、ディレクターが持ってました・・・」
もう、バカ〜ン!
PS
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三十数年生きてきて、この間初めて気づいたことがある。
誰かに謝らなければならないことや、後ろめたい事、心苦しい事がある時って心がドーンと重くなりますよね。
それが続けば続くほど、心が痛くなりますよね。
結局、覚悟を決めて正直にそれを告げた途端、心の中がスーッと楽になりますよね。
なーんだ、勇気を出して言ってみるもんだ!と元気が出てきますよね。
でも!でもですよ!自分の心の中にあった重いどんよりとしたモノはどこに行ったんでしょう?
それが言われた相手にそっくりそのまま蓄積されるのであれば・・・勇気って意外とやっかいなんだなーと改めて思いました。
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