二人の外交官の死が伝えられた日。『朝日』の社説。
「イラクを愛し、危険も顧みずに身を粉にして働いていた人たちが、なぜ殺されなければならないのか。」
「イラク人を助けたいという両氏の情熱ゆえに、」
日本人が死ぬと、それはいつも美化される。常套句を伴って。
「イラクを愛し」だと、「両氏の情熱」だと。社説の主は何を知っているというのだろう。
確かに銃撃され命を失ったことは痛ましい。
だが、彼らがイラクにいたのは、イラクをこよなく愛していたからでもなく、イラク復興に命をかけるほど情熱的だったからでもないだろう。
外務省の役人としての仕事だったからに過ぎないのではないか。
片や英国大使館の参事として、片や元ヨルダン大使館書記官として、官僚として仕事に従順だったにすぎないのではないか。
仕事に熱心だったに過ぎないのではないか。不幸な政府の元で。
「この戦争に大義はない」と評しておいて、それに追従する仕事に熱心だった者たちは、同情に値するかもしれないが、「死」を持って美化することが果たして正しいのだろうか。
同じ外務官僚で、イラク戦争に反対の意志を示し、結果クビになった人間はさっぱり評価されないのに。彼は死んでいないからとでもいうのだろうか。彼の方がよっぽど勇気ある行動だったのに。
今回の事件が示したものは、軍人であろうがなかろうが、侵略して来た側についたものは「死」という名の報復を受けるという冷徹な事実であろう。
それが今のイラクであるということだ。
そんなことはとっくに判っていたはずなのだ。
アメリカに批判的なメディアは誤射という制裁を受け、アメリカに従うメディアは抵抗運動の武力攻撃を受け、査察の情報をアメリカに流した国連も標的になる。
メディアだから、NGOだから、民間人だから、丸腰の文民だから免れる?
そんな平和ボケは通用しない。
そこは圧倒的な武力と無差別攻撃で多くの同胞を失った人々の憤怒と復讐の情熱が渦巻いている場所なのだ。フセイン側につき、地下にもぐった戦士たちがゲリラ戦を展開するというだけでなく、大国の横暴に積年の恨みと、侵略への抵抗の意志を抱く「アラブの大義」が根底にあるとは考えられないだろうか。
イラク開戦に際し、シリアから、レバノンから、パレスチナの組織の指示で多くのムジャヒディンがイラク入りしたことを私は知っている。そこにアルカイダのメンバーもいたことだろう。これは、イラク一国の紛争ではなく、中東を舞台にした反帝国主義の戦いといってもいいのではないだろうか。
だから、この事件は予想できなかった悲劇でもなく、謎でもない。
この事件を、この3年間、一日に平均3人が殺されているパレスチナ人に聞いたらどう答えるだろう。
「それはお気の毒、でもたった二人だろう」と鼻であしらわれるだろう。
彼らの死は数でしかない。そこには名も残らない。「死」は日々理不尽な形で襲ってくる。占領、抑圧の中で。
アメリカとその同盟国イスラエルは中東の地において、もう数十年にわたって国家テロを続けているのである。そして抵抗運動者としてのテロリストを日々作り出してきたのである。
私たちが思い知ったのは、日本もまた彼らにとって「テロ国家アメリカの手下」として認知されたという事実なのだ。
そこに自衛隊を派遣するという「憲法違反」を日本は侵そうとしている。
いや「憲法違反」などたいしたことはないのかもしれない。
主体なきアメリカ追従のつけがどれほど大きな災禍を招くのか、それに対する鈍感さこそ問題だろう。
わけもなく「引き返せない」という強迫観念を補完するために「死」は利用される。
参事官が学生時代優秀なラグビーの選手だったとか、書記官には身重の妻がいたとか、そうしたお涙頂戴の能天気な報道が、冷徹な事実を隠蔽してしまう。
そして、こうした情緒的な追悼ムードが、「テロは絶対に許すまじ」「彼らの死を無駄にするな」という感情的な世論を喚起する。
日の丸に覆われた棺は、彼らの遺族のきわめて個人的な深い悲しみを、国民の悲しみのように転化し、「彼らの意志を継いで」と政府はその死を再利用する。
「愛」や「情熱」が死を装飾する。
アメリカに追従するしかない日本の姿を欺瞞的に隠蔽する。
戦争や軍事侵攻は、いつも死を美化するところから始まる。そして報復を正当化する。
その愚かしさを繰り返す誘惑に駆られるのはなぜだろう。
私たちは何に飢えているのだろうか。「血」か?
死は残酷だ。
役人の死は国家に再利用されるという意味で二重に残酷だ。
死んだ二人に「無念」があったとしたら、「死の再利用」に対する無念だと思いたい。
はっきり言った方がいい。
死は決して美しくなく、彼らの死は無駄死にだったと。
もしそう言えないのなら、私たちは抵抗の最後の手段として自爆攻撃をする者たちの死も賛美しなくてはならないだろう。
彼らほど同胞への「愛」と抵抗への「情熱」に満ち満ちている存在はないのだから。
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